鴻臚館に想いをよせて 第三部

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第三部/全四回

第三部「丘の向こう側」

令和の春。

 中学二年生の石橋海斗(いしばしかいと)は、社会科見学が嫌いだった。

 鴻臚館跡展示館。舞鶴公園の中にある、こじんまりとした建物。教科書に載っているような場所。班行動のはずが、友達グループはいつの間にか別の輪に固まっている。先生は先頭を歩き、海斗は列の端で一人、スマートフォンを持てない退屈さをもてあましていた。半年前に大阪から転校してきた海斗は、いまだに「福岡」という土地に馴染めないでいた。言葉のイントネーション、給食のメニュー、地元の子たちの間にある「当たり前」のすべてが、自分だけ少しズレている気がしていた。

 展示室をぼんやり歩いていると、一人のおじいさんが声をかけてきた。

「あんた、海斗くんやろ?」

 振り返ると、白髪の小柄な男性が立っていた。ゆったりしたポロシャツ姿で、目が細く、笑うと皺が深く刻まれた。

「ボランティアガイドをしとります。お母さんと知り合いで。田村って言いますたい」

 金田幸造(かねだこうぞう)。地元の人だった。

 海斗は断れる雰囲気でもなく、気がつくと一人で幸造についてガイドを受けていた。先生もクラスメートも、いつの間にか別の展示室へ移っていた。

「ここが鴻臚館の遺構たい」と幸造は言った。「ガラスケースの中に見えるやろ?礎石が実際に残っとる。千年以上前の石が、そのまま出てきたとよ」

「へえ」

「感動せんと?」

「……まあ、石ですし」

「そうたいねえ」と幸造は笑った。怒りもせず、たしなめもせず、ただ笑った。

 次のコーナーで足を止めた。

「このトイレの遺構ね」と幸造は言った。「千年以上前の外国人が使ったとよ。豚を食べる人たちの寄生虫が、土の中から出てきたんよ」

「……うんこから分かったんですか」

「そう」幸造は笑った。「うんこから分かった」

 海斗もつい笑ってしまった。展示館に入って初めての笑いだった。

「面白いですね、それ」

「何が面白い?」

「えっと……名前も残ってない人が、うんこだけ残したって。なんか、すごくないですか」

「そうたい」と幸造は静かに言った。「偉か人の名前は消えても、生きた証は消えんとよ。土の中に残る。誰かが掘るのを、待っとる」

 海斗はしばらく展示を見ていた。ペルシャから渡ってきたガラスの器の破片。新羅の陶器。イスラム圏の陶片。この小さな丘に、かつて世界中のものが集まっていた。遣唐使として旅立った人々の記録もあった。空海、最澄、吉備真備。みんな、ここから海に出ていった。荒れる玄界灘を越えて、帰れるかも分からない海へ。

「ぼく」と海斗は言った。「大阪から来たんですけど、なんか馴染めなくて。半年経つのに、なんか、ずっとよそ者みたいで」

「知っとるよ」と幸造は静かに言った。急かさず、哀れむでもなく。

「海を渡ってきた使節みたいだって、自分で思うんです。言葉も違うし、空気も違うし、クラスの輪に入り方が分からない」

 幸造は少し考えて、丘の外の方向を見ながらこう言った。

「ここに来た外国の人たちはね、何度も来たとよ。嵐に遭っても、仲間を失っても、また船に乗って来た。遣唐使なんか、半分の船が遭難したとよ。それでも来た。なぜだと思う?」

 海斗は答えられなかった。

「ここに、温かいものがあったからたい。出迎えてくれる人がおったから。宴を開いて、飯を食わせてくれる人がおったから。一度来て、また来たくなる場所があったから」

 展示館を出ると、博多湾が夕日を受けて輝いていた。舞鶴公園の桜はもう散っていたが、新緑が丘全体を柔らかく包んでいた。

 遠くで、クラスメートたちが海斗を見つけて、手を振っていた。

「海斗ー! こっちこっち!」

 声をかけてきたのは、いつも隣の席の中村だった。「どこ行っとったん?」と笑顔で駆け寄ってくる。

 海斗は少しだけ、足を速めた。

 千年前の丘で、大陸からの風が今日もやさしく吹いていた。

===この全3回の物語は、クロウドAIによるフィクションです===
小説はこれで終わりです。

第四部 鴻臚館に想いをよせて

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